8月26日の試合レポート(準々決勝)

男子シングルス
東京五輪金メダリストが見せるさらなる進化

ビクター・アクセルセン(デンマーク) 21-10 / 21-10 アンソニー・シニスカ・ギンティング(インドネシア)

 東京五輪金メダリストのビクター・アクセルセンと、銅メダリストで世界ランキング6位のアンソニー・シニスカ・ギンティングの豪華対戦が準々決勝で実現した。対戦成績は、アクセルセンの9勝4敗、7連勝中で、負けたのは2020年1月のインドネシアマスターズまでさかのぼる。また、アクセルセンは今シーズンで既に5大会優勝と絶好調で、4大会ぶり2回目の世界王者奪取に向けて邁進している。

 第1ゲーム、アクセルセンが長身を活かした早いタッチでシャトルを沈めていく。一方のギンティングは、喰らいついていくものの、「対戦に向けて準備をしていきたが、(アクセルセンが)すごく強くて、すぐに攻められて自分のプレーがわからなくなってしまった」と振り返ったよう、ロブやクリアのアウトを連発してしまう。ギンティングはスピードを上げて打開を試みるも、アクセルセンが冷静に対処し、7連続ポイントなどで21-10とした。

アンソニー・シニスカ・ギンティング(インドネシア)
アンソニー・シニスカ・ギンティング(インドネシア)

 第2ゲーム、序盤こそお互いに点を取り合うも、流れは変わらない。「どのコートでも集中して臨んだ。うまくいってよかった」というアクセルセンが圧倒的なスピード、アタック力で12連続ポイントを奪い、21-10と完璧な試合内容で準決勝進出を果たした。

 試合後、「今日はうまくいってよかった、明日は明日。世界選手権は重要な大会、メダルを取りたい」とアクセルセンは淡々と語った。一方のギンティングは、最近のアクセルセンについて聞かれると、「以前は背が高くて、動きが速くなかった。コートをカバーできるようにトレーニングで改善されて、今は弱点がない。2年前とは全然違う。自分の長所と短所を知ることが大事。自分も頑張りたい」と、ライバルから学ぶ、バドミントンを純粋に楽しむ25歳の謙虚な姿が見られた。

 

女子シングルス
強い気持ちで強敵を撃破、連覇に向けて一つずつ

山口茜(日本) 21-17 / 21-17 キャロリーナ・マリン(スペイン)

山口茜(日本)
山口茜(日本)

 2連覇のかかる世界ランキング1位の山口茜と、史上最多4回目の世界を目指すスペインのキャロリーナ・マリン(世界ランキング5位)が対戦した。マリンは、左ひざ前十時靭帯断裂の怪我から復帰したばかりで、まだ本調子ではない中、ここまで勝ち上がってくるのはさすがである。勝負どころの強さが抜群なだけに、「まずはプレーも気持ちも引かないように積極的にプレーしたい」という山口がどう戦うか注目された。

 第1ゲーム、マリンの威勢のよい声がアリーナに響く。鍛えられたフィジカルからの強打、その後の雄叫びを聞くと、マリンが今年も東京にやってきたという気持ちになる。見ていて心が躍る。山口も多彩な打ち分けでチャンスを作ってじわりじわりと追い上げる。カウンターを狙ったドライブがネットにかかり、10-11とされる。インターバル明けからスピードを上げた山口が、焦らずラリーで崩してから緩急を織り交ぜたスマッシュ、ドロップで連続得点を奪っていく。6連続ポイントなどで19-12として、最後は山口がスマッシュを沈め21-17で奪う。

 第2ゲーム、武器のスピードと強打でマリンが仕掛けてくる。一方、「少し高さを出して、相手の得意な速い展開でなく、コートを大きく使って、動かしながらラリーしていくイメージでプレーした」という山口もついていく。11-11までは1点を争う好ゲームとなる。「山口の試合運びがよかった。シャトルコントロールができずミスをしてしまった」というマリンのミスや、相手を崩してからのスマッシュ、ドロップで得点をあげた山口が抜け出す。最後は「(この試合)崩すのに有効だったり、決まったりしていた」という、よく走っていたクロススマッシュを沈め、21-17とした山口が準決勝への駒を進めた。

キャロリーナ・マリン(スペイン)
キャロリーナ・マリン(スペイン)

 試合後、山口は、「調子は悪くない、いい方なので、前向きに捉えていきたい。試合を経てよくなっている。考えすぎずにやっていきたい。」と冷静に答えた。また、明日のアン・セヨン(韓国)との対戦について、「ディフェンス力とラリー力がある選手なので、嫌がらずに我慢していきたい。ただラリーするのではなく、自分からラリーを作っていきたい」と力強く語ってくれた。

 また、マリンは、「(ケガから復帰して)調子が戻ってきているところなので無理をしたくない。1年間のブランクは、メンタル的なものもある。試合をするごとによくなってくる」と来週からのダイハツ・ヨネックスジャパンオープンに気持ちを切り替えていた。

男子ダブルス
紙一重の攻防、自慢の強打を存分に放ったタフなインドペアが歓喜のベスト4進出

サトウィクサイラジ・ランキレッディ/チラーグ・シェッティ(インド) 24-22/15-21/21-14 保木卓朗/小林優吾(日本)

サトウィクサイラジ・ランキレッディ/チラーグ・シェッティ(インド)
サトウィクサイラジ・ランキレッディ/チラーグ・シェッティ(インド)

 ディフェンディングチャンピオンとして、今大会を堂々たるプレーで戦っている保木卓朗/小林優吾(世界ランキング2位)が、180㎝中盤同士の大型ペアである、インドのサトウィクサイラジ・ランキレッディ/チラーグ・シェッティ(世界ランキング7位)と準々決勝に臨んだ。

 第1ゲーム、開始早々からインドペアが猛攻を仕掛けて、瞬く間に得点を奪っていき12-5とリードを奪う。対して保木/小林は、ネット前の細かい切り返しや低い展開を駆使して相手の得意な展開を封じ、連続得点で16-14と逆転に成功する。その後ゲームポイントまでこぎつけたが、わずかなレシーブミスから強打を決められてしまい、一転してゲームを落としてしまう。

 第2ゲームは相手の強打にも臆することなく、保木が前に出てゲームメイクし、小林が強打で決めていく本来の形を多く作る。競った展開で迎えた大事な終盤の流れを逃さず、5連続得点で21-15と奪い返した。

保木卓朗/小林優吾(日本)
保木卓朗/小林優吾(日本)

 最終ゲーム、慎重かつ大胆なプレーで先に流れを掴みたい保木/小林だったが、徐々に動きに狂いが生じてリードを許してしまう。一貫して高いポジションでのシャトルタッチと強打に徹してきたインドペアは、このチャンスを逃さず畳みかける。待望の21点目を奪ったその瞬間、サトウィクサイラジ・ランキレッディは両ひざを床について全身で喜びを表した。

 連覇への挑戦がついえた保木/小林は試合後、「1ゲーム目を取れていれば、もっと違う展開にできたのではという思いはある。でも振り返ってもそこに戻ることはできないので、これを糧にして、ダイハツ・ヨネックスジャパンオープンで頂点を取ることに(気持ちを)切り替えていきたい(保木)」「相手のクオリティが高く、自分たちがワンテンポ遅れてしまった。長身ペアとの戦い方をもっと練習していかないといけない(小林)」とコメント。この壁を乗り越え、もっと強くなるだろうホキコバペアの今後も注目だ。

女子ダブルス1
もう一度頂点へ、松本/永原の収穫ある勝利に観衆が沸く

永原和可那/松本麻佑(日本) 21-13/19-21/21-12 イ・ソヒ/シン・スンチャン(韓国)

永原和可那/松本麻佑(日本)
永原和可那/松本麻佑(日本)

 2018、2019年優勝、2021年3位と、世界選手権との相性がよい永原和可那/松本麻佑(世界ランキング6位)は、4大会連続のメダル獲得と女王返り咲きを目指して、世界ランキング3位のイ・ソヒ/シン・スンチャンとの準々決勝に臨んだ。女子ダブルスながらコート上の全員が170㎝以上と、非常に迫力ある試合が繰り広げられることとなった。

 第1ゲーム、永原/松本はスマッシュを中心に組み立て、次々にシャトルを沈めてリードを奪っていく。ネット前での精彩を欠く韓国ペアを攻め立て、21-13と幸先よくゲームを奪う。

 第2ゲーム、イ・ソヒが声と気迫あふれるスマッシュの連打から韓国ペアが最初の得点をあげる。このゲームでは攻撃の執念が違った。強力なドライブでシャトルを押し込み、上がってきた球を強打で決める「超強気」なスタイルで15-11とリードを奪う。ここから永原/松本も前へ踏み込んで仕掛け、7連続得点をあげて逆転するが、要所でのミスが出てしまい勝ち切れない。気持ちで上回った韓国ペアが4連続得点で21-19とし、ゲームを逆転奪取する。

イ・ソヒ/シン・スンチャン(韓国)
イ・ソヒ/シン・スンチャン(韓国)

 「第2ゲームは取られてしまったけど、一度は逆転して流れを引き戻せたことで、ファイナルゲームもしっかり切り替えて臨めた」という永原/松本は、サービス回りのショットでうまさを見せ、いち早く攻撃の体勢を作って決めていく。このゲームではスマッシュの力加減も場面ごとにうまく変えながら効果的に決めていく様子が多く見られた。また、インターバル・チェンジエンズ後には、ドライブの低い展開で鋭く切り込んで優位に立ち、14-7として大きくリードする。最後までしっかり集中し、最後は永原がスマッシュの連打で決めた。21-12でこの試合を制した永原/松本は、見事4大会連続のメダル獲得を決めた。

 明日は、昨年2人の3連覇を阻止して女王に輝いた因縁の相手、中国のチェン・チンチェン/ジャ・イーファンと再び準決勝での対戦となる。女王返り咲きを狙う永原/松本のリベンジマッチに期待したい。

女子ダブルス2
高かったメダリストの壁、韓国ペアが高い技術を見せつけるストレート勝利

キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国) 21-16/21-15 松山奈未/志田千陽(日本)

キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国)
キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国)

 目覚ましい成長を遂げている日本のシダマツペアこと松山奈未/志田千陽が、昨年大会に引き続き準々決勝に登場した。相手となった韓国のキム・ソヨン/コン・ヒヨンは東京五輪と昨年の世界選手権で銅メダル、昨年のワールドツアーファイナル優勝の実績あるペアで、上位進出を目論むシダマツペアにとっては何としても乗り越えたい壁である。

 第1ゲーム、よく動いてラリーを組み立てる松山/志田であったが、韓国ペアの懐深いディフェンスでシャトルを押し戻され、決定的な攻撃につなげることが出来ずに3-11と大きくリードを許す。それでも徐々にスピーディーな展開を作って追いかけていき、16-18と肉薄する。次の1点に集中していたその時、志田のサービスがまさかのフォルト。ここを勝負所とにらんだ韓国ペアが一気に攻め立ててこのゲームを奪う。

松山奈未/志田千陽(日本)
松山奈未/志田千陽(日本)

 第2ゲームも引き出しの多い韓国ペアがリードして進めていく。前ゲーム同様に追いかける展開の松山/志田だったが、あと1本が欲しい場面ではことごとくコン・ヒヨンの強力なショットに翻弄され、背中を捉えられない。韓国ペアは、松山のボディ高めへのスマッシュを多用して崩し、主導権を渡さない。結局、最後もコン・ヒヨンがスマッシュを立て続けに決め、21-15でキム・ソヨン/コン・ヒヨンがストレートで準決勝進出を決めた。

 本気でメダルを目指して戦ってきた松山/志田は「相手よりディフェンスのもろさがあったし、決め切るところで決め切れなかった(志田)。点数が欲しいところでとれなかったことが敗因(松山)。」と肩を落としたが、まだまだ伸び盛りの2人だけに、この負けを糧に更なる飛躍をとげることと信じたい。

混合ダブルス
鳴りやまぬ大拍手、躍動する渡辺/東野が3大会連続のメダルを決める

渡辺勇大/東野有紗(日本) 21-17/21-13 ゴー・スンファット/ライ・シェヴォン・ジェミー(マレーシア)

渡辺勇大/東野有紗(日本)
渡辺勇大/東野有紗(日本)

 東京オリンピックでのメダル獲得により、名実ともに世界のトップアスリートとして人気を博す渡辺勇大/東野有紗が順調な勝ち上がりでこの準々決勝に登場。マレーシアのゴー・スンファット/ライ・シェヴォン・ジェミーの挑戦を受けた。

 第1ゲーム、「最初は緊張があって上手くいかなかった(東野)」というとおり、向かってくるマレーシアペアの猛攻を捌ききれない。相手ショットのネットインも重なり、4-10とビハインドの渡辺/東野だったが、ひとたび渡辺がクロススマッシュを決めて勢いづくと、持ち前のテンポよいタッチと芸術的な連続攻撃でインターバル明けすぐに追いつく。この中盤には、東野とゴー・スンファットとの対等なドライブ合戦や、渡辺が2連続で決めたカウンターレシーブにより、観客は完全に渡辺/東野のプレーにくぎ付けとなる。必死についていくマレーシアペアであったが、17-17の場面でドライブをアウトにしてしまうと、立て続けにラリーを制圧される。4連続得点で21-17とした渡辺/東野が鮮やかにゲームを先取した。

渡辺勇大/東野有紗(日本)
渡辺勇大/東野有紗(日本)

 第2ゲームに入ると、渡辺/東野はまるでコート上の魔術師かのごとく、スーパープレーを連発してラリーを支配する。ぴったりと息の合ったコンビネーションに、バリエーション豊かな攻撃、そしてどんな球にも反応しての質の高いリターンと、まさに独壇場なゲーム展開で11-4と突っ走る。後半、マレーシアペアもネット前の勝負で意地を見せ、一矢報いる好プレーで得点をあげたが、大勢を覆すことは叶わなかった。ラリーの圧倒的支配を見せた渡辺/東野が21-13と快勝し、今日のショータイムは幕が閉じた。

 大会制覇を目指しここからが正念場となっていく渡辺/東野は、明日の準決勝でヨーロッパチャンピオンでドイツのマーク・ラスムフス/イザベル・ロハウを迎え撃つ。準決勝ではどのようなスーパープレーを、どのような勝ち試合を見せてくれるのか、バドミントンファンの楽しみは尽きない。

『写真:日本バドミントン協会/T.KITAGAWA』
『PHOTO:NBA 2022/T.KITAGAWA』