8月28日の試合レポート(決勝戦)

男子シングルス
男子シングルス完全優勝!無類の強さを見せたアクセルセンが強さを証明する2度目のV。

ビクター・アクセルセン(デンマーク) 21-5/21-16 クンラブット・ヴィチットサーン(タイ)

ビクター・アクセルセン(デンマーク)
ビクター・アクセルセン(デンマーク)

 昨日の準決勝でコートに立った試合の連勝記録を36に伸ばし、向かうところ敵なしで不動の世界ランキング1位を手中にしているビクター・アクセルセンが、4大会ぶりの王座奪還を目指して決勝戦に臨む。立ち向かうのは、世界ジュニア3連覇(2017~2019年)の実績を引っ提げてトップカテゴリーに参戦し、順調な成長を見せているタイの至宝クンラブット・ヴィチットサーン。

 第1ゲーム、「うまくゲームもシャトルもコントロールできていた」というアクセルセンが自由自在のラリーで圧倒して得点を重ねていく。どんな球にも素早い一歩で追いつき、優れた制球のリターンによって最小の手数で相手に上げさせては、テンポよくスマッシュを打ち込んでいく。クンラブットを全く寄せ付けることなく、21-6で先取する。

 簡単に終わらせるわけにはいかないクンラブットは「コントロールもパフォーマンスも相手の方がはるかに上なので、胸を借りるつもりでしっかり楽しんだ」と、自身の持てる技術・スピードを出して戦うことに集中、これが功を奏してラリーコントロールで優位に立つ展開が見え始める。素早いネット前への詰めでアクセルセンの足を止めたほか、リアコートへ放つスマッシュがサイドラインを突き刺して中盤まで互角に渡り合う。それでも大崩れしないのがアクセルセンの強さなのだろう。このゲームで苦しんでいたシャトルコントロールも、自身のスピードを上げて速い展開を作ることでカバーして強打を次々に突き刺していく。終盤に怒涛の6連続得点を奪い突き放すと、クンラブットの追い上げを制して21-16。両手を大きくあげて優勝をかみしめる姿は、猛々しい王者の風格があふれていた。終わってみればこの大会で1ゲームも落とすことなく、アクセルセンは完全優勝で2度目の世界王者に輝いた。

クンラブット・ヴィチットサーン(タイ)
クンラブット・ヴィチットサーン(タイ)

 この1年余りの間にオリンピック、ワールドツアーファイナルズ、全英オープン、そしてこの世界選手権を制したビクター・アクセルセン。バドミントンの世界では使われない言葉だが、この状況はまさしくグランドスラム制覇と言っても過言ではない。「次週も(ダイハツ・ヨネックスジャパンオープンで)トーナメントが続いていくが、最優先のターゲットにしてきた世界選手権を勝てて嬉しいしほっとしている。今後もプロセスを大事にして、自分がどこまでいけるのか、いつまで今の(トップの)ポジションにいられるのかを、追い求めてやっていきたい」と充実の表情で語ってくれた。今後も世界のバドミントンを牽引するアクセルセンから目が離せない。

男子シングルス表彰式

女子シングルス
会場全体で掴んだ勝利。山口が声援を力に変え2連覇達成

山口茜(日本) 21-19 / 10-21/21-14 チェン・ユーフェイ(中国)

山口茜(日本)
山口茜(日本)

 昨日の試合でアン・セヨンが「世界ランキング1位にふさわしい、ミスがなく攻撃的で完璧なプレー」と絶賛する世界選手権2連覇を目指す山口茜が、東京五輪金メダリスト、世界ランキング3位のチェン・ユーフェイと対戦する。チェン・ユーフェイは、2011年を最後にこの種目の優勝を掴み損ねている中国の期待を一身に背負い戦う。お互いにオーバーヘッドのショットが強力で、山口の多彩なショット、チェン・ユーフェイのジャンピングスマッシュは世界トップクラスだ。両者、エースショットを軸にどのように試合を組み立てるかが注目された。

 第1ゲーム、昨日の71分の試合で疲れているチェン・ユーフェイに対して、山口はスピードで圧倒しようと開始からトップスピードで攻める。一方のチェン・ユーフェイはラリーをなんとか繋ぎ、甘くなったところにジャンプスマッシュを打ち込んでいく。山口は低弾道のロブ、クリアと、精度の高いヘアピンで相手を四隅に動かしては強打を沈めていく。レシーブ力で上回った山口が主導権を握り、21-12で奪う。

チェン・ユーフェイ(中国)
チェン・ユーフェイ(中国)

 第2ゲーム、「風向きが変わり、全力で球を打てるようになった」というチェン・ユーフェイに精度の高いクリアと早いタッチのスマッシュで揺さぶられ、「相手に付き合って、攻め急いでしまった」と山口はジャンピングスマッシュ、カットスマッシュを決められてしまう。このゲーム、反撃の糸口を見つけれぬまま、10-21で奪われてしまう。

 ファイナルゲーム、両者ともにトップスピードでの攻防が続く。「自分の悪いところが出てしまった」と、ショットが決まらず焦るチェン・ユーフェイのエースショットがアウトになり、7連続得点で8-1と山口が圧倒する。お互いがダイブしてショットを拾おうとするなど、死力を尽くす戦いで、最後まで足を動かし続けたのは山口。チェン・ユーフェイの動きが遅くなり始め強打の数が少なくなったところを、アタックロブとヘアピンの打ち分けで相手を動かし続ける。1点取るごとに嵐のような声援を受け、終始ミスなく主導権を握った山口が21-14で2連覇を達成した。

 試合後、山口は「今までの中で、特に集中してできた。良いプレー、楽しくやろうとしたのが集中につながった。お客さんが応援してくださるのが力になり、前向きな姿勢でいられた」と振り返った後、「日本での世界選手権で1番を取れて嬉しい。気持ちと体を整えて、来週(ダイハツ・ヨネックスジャパンオープンで)もう一回いいプレーがしたい」と次への目標を語った。

女子シングルス表彰式

男子ダブルス
繰り広げられる攻防戦。スマッシュの嵐の中、マレーシアペアの世界選手権初制覇

アーロン・チア/ソー・ウィイック(マレーシア) 21-19 / 21-14 モハマド・アッサン/へンドラ・セティアワン(インドネシア)

アーロン・チア/ソー・ウィイック(マレーシア)
アーロン・チア/ソー・ウィイック(マレーシア)

 世界ランキング3位 アーロン・チア/ソー・ウィイックと世界ランキング5位のモハマド・アッサン/ヘンドラ・セティアワンの対戦が男子ダブルスの決勝に相応しい力強いドライブ、スマッシュの嵐と共に幕を開けた。

 第1ゲーム、アッサン/セティアワンが主導権を握る。積極的に速いラリーを生み出し、豪快なスマッシュからネット前でのプッシュという、前衛と後衛の務めを徹底的に果たしたプレーであっという間に点数を稼いでいく。チア/ウィイックも地道にスコアを積み上げるが、アッサン/セティアワンの勢いに歯止めをかけることは叶わず7-11とリードを許す。流れを変えるため攻めの1手を恐れず、チア/ウィイックはローレシーブに切り替え、徐々に相手のペースを崩し、アッサン/セティアワンの隙をついては積極的に攻めたてる。両者の攻防に観客は思わず息をのみ、熱い視線がコートに注がれる。13-18と劣勢のチア/ウィイックだったが、強気のアタックを貫くことで見事に巻き返し、20-19でこのゲーム初めてリードを奪い、勢いそのままに21-19でゲームを奪う。

モハマド・アッサン/へンドラ・セティアワン(インドネシア)
モハマド・アッサン/へンドラ・セティアワン(インドネシア)

 第2ゲーム、どちらが制すかまったく予測のできないまま、1点、1点と互いに点を積み上げていく。7-7からアッサン/セティアワンのコントロールが粗くなり、ミスが目立ち始める。チア/ウィイックは我慢のレシーブから一瞬の隙をついてスマッシュを沈め、さらには相手のアウトもしっかりと見極める冷静なジャッジで着実に点数を稼いでいく。16-12とゲーム終盤からは完全にチア/ウィイックのペースで結局は21-14とマレーシアに世界選手権初の金メダルをもたらした。

 試合後、チア/ウィイックは「世界大会でマレーシア代表として初めての金メダルを獲れたことが本当に嬉しい。マレーシアの英雄、リー・チョンウェイのような安定した強さを身につけられるよう今後も努力していきたい」と嬉し涙と共に語った。

男子ダブルス表彰式

女子ダブルス
女王の貫禄。要所を抑えたチェン/ジャが危なげなく2連覇達成

チェン・チンチェン/ジャ・イーファン(中国) 22-20 / 21-14 キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国)

チェン・チンチェン/ジャ・イーファン(中国)
チェン・チンチェン/ジャ・イーファン(中国)

 世界ランキング1位のチェン・チンチェン/ジャ・イーファンが、世界ランキング3位のキム・ソヨン/コン・ヒヨンと対戦する。中国ペアは2大会連続3回目の優勝を目指す絶対女王で、韓国ペアは持ち前の勝負強さで勝ち上がってきた、昨年の世界選手権銅メダリスト。昨年の東京オリンピック以来の対戦で、東京の地で再び相対する。両者、気持ちを全面に出すプレースタイルのため、メダルの色をかけた気持ちと気持ちのぶつかり合い、白熱した試合になることが予想された。

 第1ゲーム、序盤から両者の声が会場に響く。お互いにクリア、ロブを使った大きな展開で、ジャ・イーファンとコン・ヒヨンそれぞれがスマッシュを決めていく。6-6で85球のラリーを中国ペア、11-11で65球のラリーを韓国が制するなど、一点を取り合う攻防となるが、接戦をものにしたのは、最後まで攻め続きけたチェン・チンチェン/ジャ・イーファン。チェン・チンチェンが素早く前衛に潜り込み、プッシュを沈めて、22-20で奪う。

キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国)
キム・ソヨン/コン・ヒヨン(韓国)

 第2ゲーム、キム・ソヨン/コン・ヒヨンは守りを固め、相手のミスを待つ。流れを掴んだところで、キム・ソヨンが積極的にドライブで相手にプレッシャーをかけていく。しかし中盤から、昨日92分の試合をした疲れからか、特にキム・ソヨンに疲れが見え、クリアへの反応が鈍くなり、チェン・チンチェン/ジャ・イーファンが抜け出す。リズムを掴んだ中国ペアがギアを上げ、5連続得点で18-12と抜け出す。ジャ・イーファンのスマッシュ、チェン・チンチェンのプッシュの連続攻撃で点を重ね、21-14を取った直後2人は両手を上げ、喜びを噛み締めた。終わってみれば、世界ランキング1位として、終始ミスの少ない貫禄のある勝利で、2連覇を成し遂げた。

 試合後、キム・ソヨン/コン・ヒヨンは「勝ちたいという気持ちで臨んだから、ものすごく悔しい思いでいっぱい。一方で、怪我なく大会を終わることができ嬉しい、パートナーにも感謝したい。」と充実した様子が見て取れた。

 チェン・チンチェン/ジャ・イーファンは、「非常に緊張した試合で、いろいろな困難があった。そこで落ち着き、相方を信用することができた」と振り返り、「パリ五輪に向けて、明日のことをしっかりやっていきたい」と実直に取り組む姿勢を表明した。地に足をつけた絶対女王は、着実に前に進んでいく。

女子ダブルス表彰式

混合ダブルス正確なショットと圧倒的なスピードでゲームを支配。中国ペアが3度目の栄冠を掴む。

ジェン・シーウェイ/ファン・ヤチョン(中国)21-13/21-16渡辺勇大/東野有紗(日本)

 「金メダルを目指して戦う」と強い気持ちでこの大会に臨み、この決勝戦まで勝ち上がってきた渡辺勇大/東野有紗が、混合ダブルスの第1人者ペアである中国のジェン・シーウェイ/ファン・ヤチョンに挑んだ。中国ペアは東京オリンピック後の休養期間もあって現在こそ世界ランキング2位だが、過去5年間のほとんどの期間で1位に君臨していたトップペアで、勝ち方を知り尽くした混合ダブルスのプロフェッショナルで頂きを目指す渡辺/東野にとっては超えるべき大きな壁である。

 第1ゲーム、持ち味を遺憾なく発揮して優位に立ったのは中国ペア。超速のジェン・シーウェイがコートを駆けまわってコース、角度ともに厳しいショットを繰り出しては、ファン・ヤチョンが前で決めていく。渡辺/東野も得意の緩急を織り交ぜた連続攻撃で、相手に厳しい体勢での返球をさせるものの、崩し切るまでには至らない。瞬く間に体勢をリセットし次の球への準備をする中国ペアに、甘くなった球を逆に決められてしまい、8-14と大きく水をあけられる。このあと、東野がクロススマッシュを沈めるなど、渡辺/東野らしいプレーも見られたが差を縮めることはできず、13-21でゲームを失った。

 第2ゲームに入ると、渡辺/東野は奇想天外な配球と絶妙なコンビネーションで相手をかき回し、チャンス球を渡辺が沈めるなど幸先よく得点を奪っていく。会場に詰めかけた多くの観客は、大きな拍手で日本ペアを後押しする。それでも「試合をするごとに自分たちの調子も上がっていった」というジェン・シーウェイ/ファン・ヤチョンは、ハイスピードラリーの中でも球を決して浮かせることのない厳しいショットを連発し、流れを引き渡さない。特に今日のファン・ヤチョンは、完璧な前衛をこなした。ネット勝負を仕掛ければスレスレのヘアピンが決まり、攻撃時には相手の鋭いドライブリターンにも押し負けずにプッシュを沈めるなど、要所で渡辺/東野の壁となる。そんなパートナーの好プレーに応え、ジェン・シーウェイも気迫たっぷりのスマッシュを次々に決めていく。得点を重ねるごとに勢いを増した中国ペアが14-14から抜け出し、最後もスマッシュを沈めて21-16とし、混合ダブルス同一ペアとしては最多タイ記録となる3度目の優勝を決めた。

 見事王座奪還となったジェン・シーウェイ/ファン・ヤチョンは「今回の優勝は初優勝の時に匹敵するような興奮を感じている(ジェン・シーウェイ)。苦しい試合も多かったので、優勝して心が解放された(ファン・ヤチョン)」と喜びを表現した。

 一方、敗れた渡辺/東野は「金を本気で狙った大会なので本当に悔しい。いいようにやられてしまったという結果を受け入れて、またここから上がっていきたい(渡辺)。今日は全然自分の仕事ができなかったので、もっと練習が必要と感じた。しっかり練習をして同じレベルで戦えるようにやっていきたい(東野)」と、今後の逆襲を誓った。敗れたとはいえ、3大会連続のメダルを獲得したことは快挙に他ならない。今後の更なる成長が楽しみだ。

混合ダブルス表彰式

『写真:日本バドミントン協会/T.KITAGAWA』
『PHOTO:NBA 2022/T.KITAGAWA』