8月28日の見所(決勝戦)

男子シングルス
五輪金のビクター・アクセルセンが
新鋭ヴィチットサーンを迎える

ビクター・アクセルセン(デンマーク)
ビクター・アクセルセン(デンマーク)

 東京五輪を制したあと、ワールドツアーで7勝を挙げ、いまや絶対王者といっても過言ではないビクター・アクセルセン(デンマーク・WR1位)。準決勝では、ストレートで下した周天成(チャイニーズ・タイペイ)に「彼は緩急つけたショットを自在に出せるところがすごい」と脱帽させた。

 また序盤からのアクセルセンの鮮やかな勝ち方を見ると、もはやその猛攻は誰にも止められないのではという印象だ。もちろん、アクセルセン自身も自らの強さを理解し、2017年に座った王座を奪回しにいくつもりだ。

 そんな絶好調のアクセルセンへの挑戦権は、初々しさが残る新鋭の手に渡った。

クンラブット・ヴィチットサーン(タイ)
クンラブット・ヴィチットサーン

 タイのクンラブット・ヴィチットサーン(WR17位)は奈良岡功大(日本)と同世代の21歳。2019年、世界への登竜門、世界ジュニア選手権で史上初となる3連覇を達成し、シニアの世界でも「ブレイク間近」と目されていた。くしくも世界選手権という大舞台で、ロー・ケンユー(シンガポール)らを倒し、注目される存在へと変貌した。

 決勝戦についてヴィチットサーンは、「とても難しい戦いになる」と率直な思いを口にしながらも「勝ちたい気持ちはある」と言い切っている。アクセルセンを相手に失うものは何もなく、立ち上がりから全力でいくつもりだ。

【明日への抱負】

アクセルセン「今日の試合はエネルギーを使わずに終えられたので、明日のための力は十分残っている。ファイティング・スピリットを忘れず、タイトルをとりに行くつもりだ」

ヴィチットサーン 「アクセルセン選手からいろいろ学びたいという気持ちでいる。今夜は彼の映像を見たりして、しっかり準備を進める」

対戦成績=アクセルセンが4戦全勝

女子シングルス
山口茜が2連覇に王手!
東京五輪金の陳雨菲と対戦

山口茜(日本)
山口茜(日本)

 日本のエース山口茜(WR1位)が韓国のホープ安洗瑩との準決勝を含め、すべての試合でストレート勝ちし、大会2連覇に王手をかけた。

 決勝の相手は、東京五輪金の陳雨菲(WR4位)。山口の一つ下の24歳は、シニアデビューの頃、勝てない時期を長く過ごしたが、華奢な体を改造することで2018年頃からワールドツアーの上位常連に。今大会の準決勝では、危なげなく勝ち抜いていた戴資穎(チャイニーズ・タイペイ)を下し、中国女子としては8年ぶりの決勝進出を果たした。

 決戦を前に陳雨菲は、「プレッシャーはありますが、負けずに戦いたい」と冷静に語る。一方、直近の大会で陳雨菲に3連勝している山口は「これまでの対戦結果は考えずに楽しくプレーしたい」と気を緩めず戦いたい気持ちを打ち明けた。

陳雨菲(中国)
陳雨菲(中国)

 勝率からいえば、山口が有利な状況ではあるが、大舞台では何が起こるか分からないのも事実。オーバーヘッドからの多彩な攻撃を持ち味にする山口が勝つか、素早いリズムでラリーを構築する陳雨菲が勝つか。バドミントンファンは会場でしっかりと見届けてほしい。

【明日への抱負】

山口茜「世界選手権で最大限の数をこなして試合できることがうれしい。決勝戦はラリーのなかで積極的に攻めていきたい」

「女子シングルスは強い選手が拮抗しており、誰にでもチャンスがある。明日は自分ができることを全力でやりたい」

対戦成績=山口茜が13勝8敗

男子ダブルス
4回目Vをねらうレジェンドと
東京五輪の銅メダリストが激突

ヘンドラ・セティアワン/モハマド・アッサン(インドネシア)
ヘンドラ・セティアワン/モハマド・アッサン(インドネシア)

 互いにバドミントンに国技の誇りを持つ伝統国が決戦の舞台に立つ。

 インドネシアのヘンドラ・セティアワン/モハマド・アッサン(WR3位)とマレーシアのアーロン・チア/ソー・ウィイック(WR6位)は、東京五輪の3位決定戦で銅メダルを争った因縁の顔合わせ。ファイナルゲームの末、勝利をつかんだのはチア/ソーだった。五輪はどちらが勝ってもおかしくない熱戦だっただけに、明日はどちらが勝者になってもおかしくない。

 ただし、精神的に有利なのは、経験豊かなインドネシアか。ペアとして4回目の出場となる38歳&34歳は、これまで出場した3大会ですべて優勝。今回も決勝進出を果たし、セティアワンは「決勝進出は本当にびっくり!」と素直に喜んだ。

 明日は優勝最多タイ記録がかかるが、大舞台でかかる特別な緊張への対応を知り尽くしているのが彼らの強み。準決勝で敗れたインドネシアのファジャル・アルフィアン/ムハマド・リアン・アルディアントも「2人はメンタルが強すぎる」と舌を巻いていた。

アーロン・チア/ソー・ウィイック(マレーシア)
アーロン・チア/ソー・ウィイック(マレーシア)

 一方、チア/ソーには大きなプレッシャーがかかる。優勝すれば、マレーシアにとっては全種目を通じて初の金メダルで、その栄誉が母国をどれだけ喜ばすか2人はよく知っている。それでも長身のソーがネット前に立ち、体に強いバネを仕込んだチアが後方で強打を放てれば、悲願を引き寄せることも可能だろう。

 対するインドネシアペアは、マレーシアがトップ&バックを築く前に、柔らかなラケットワークで、ネット前にシャトルを沈めたいところ。バドミントンファンには、北京五輪金のセティアワンの老練なシャトルさばきにも注目してほしい。

 会場を訪れれば、多くのインドネシアとマレーシアのバドミントンファンがそれぞれの国旗を激しく揺らす光景も楽しめるはずだ。

【明日への抱負】

セティアワン「私たちはベテランだが、明日も負けたくないという気持ちで挑む」

チア「東京五輪の3位決定戦で勝ったことは多少自信になるが、明日は金メダルがかかる決勝で緊張感も違う。インドネシアペアは経験豊富で簡単には勝たせてもらえないと覚悟している」

対戦成績=セティアワン/アッサンが7勝3敗

女子ダブルス
3回目優勝を目指す中国ペアに
しぶとい韓国ペアが挑む

金昭映/孔熙容(韓国)
金昭映/孔熙容(韓国)

 日本から4組を送り出した女子ダブルスは、準決勝に唯一残った永原和可那/松本麻佑(WR6位)が2大会連続3回目優勝を狙う中国の陳清晨/賈一凡(WR1位)にストレート負け。中国ペアは序盤からスマッシュとカットを乱れ打ちながら、危なげなく、決勝戦にたどり着いた。

 対して反対側の山からは、前回銅の金昭映/孔熙容(韓国・WR3位)が苦しみながら勝ち上がってきた。準決勝ではタイのサプシリー・タエラッタナチャイ/プッティタ・スパジラクルと顔を合わせ、ファイナルゲーム15-19から逆転。3度マッチポイントを握られるも恐れずに攻め切った。決勝戦でも、この気持ちの強さを発揮できるか。

陳清晨/賈一凡(中国)
陳清晨/賈一凡(中国)

 挑戦者の金昭映/孔熙容にとっては、5月の女子国別対抗戦・ユーバー杯で韓国が優勝した際、チームメイトの李紹希/申昇瓉が見せた奮闘も支えになりそうだ。

 「李紹希/申昇瓉ペアが陳清晨/賈一凡ペアに勝ったとき、1本1本あきらめなかった姿勢が印象深い」と話すのは、後方で鋭くスマッシュを連打する金昭映だ。

 陳清晨/賈一凡にとっては、土壇場で見せる韓国のしぶとさをどう攻略するかが、一番の課題になりそうだ。

【明日への抱負】

孔熙容「久しぶりの対戦。相手がどういうプレーをするかよりも、自分たちのプレーをしっかり出しきることを考えたい」

賈一凡「韓国ペアは、金昭映選手に攻撃力があり、警戒している。今日勝ったことは忘れて、これから自分たちの準備をしたい」

対戦成績=陳清晨/賈一凡が7勝3敗

混合ダブルス
頂点を見据える渡辺/東野が決戦へ
対戦するのは東京五輪銀の中国ペア

渡辺勇大/東野有紗(日本)
渡辺勇大/東野有紗(日本)

 東京五輪のメダリストたちが頭ひとつ抜けた強さで準決勝に進出した混合ダブルス。銅メダルの渡辺勇大/東野有紗(WR3位)は、唯一メダル組でないドイツのマーク・ラムスフス/イザベル・ロハウを8本6本で退け、ラムスフスに「スピードが違い、まったくついていけなかった」と嘆かせた。

 この渡辺/東野が今回、見つめているのは金メダルだ。19年銅、21年銀と一つずつステップアップし、もはや頂点しか満足することはできない。そんな思いを秘めて、2人は序盤から効率よくストレート勝ち。準決勝後、渡辺は、「まだ十分戦えるメンタルがある。(明日は)いいプレーができそう」と頼もしく次戦を見つめた。

鄭思維/黄雅瓊(中国)
鄭思維/黄雅瓊(中国)

 そんな2人と激突するのが、混合ダブルス界のジャイアント・鄭思維/黄雅瓊(WR1位)だ。昨年の東京五輪決勝で12勝2敗と大きく勝ち越していた同国の王懿律/黄東萍に敗れ、銀メダルだったが、今回、準決勝で1年前のリベンジを果たした

 今年のワールドツアーでは5勝中と安定感にも優れ、渡辺/東野にとっては、越えるのが最も難しい壁として存在している。明日、日本のサポーターは、ぜひ2人が壁を崩すための応援を送ってほしい。

【明日への抱負】

渡辺勇大「中国ペアは低く速い展開が得意。かわす球などを使って、引かずに勝負したい」

鄭思維「渡辺選手は動きが速く、東野選手は小柄ですが、フィジカルが非常に強い。これからしっかり研究して臨みます」

対戦成績=鄭思維/黄雅瓊が10勝2敗

『写真:日本バドミントン協会/T.KITAGAWA』
『PHOTO:NBA 2022/T.KITAGAWA』